オサナイカオリノシゴト

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友情

その後の世界を作るために


週末、ミラノ時代の友人アルベルトが急遽来ることになった。

京都に行く予定が新幹線止まり、東京にいてもミュージアムやら何やら閉館騒ぎでもれなく台風クルゾ難民となったから、午後から鎌倉に行こうと思う、会える?と電話があった。

その時わたしはお寺でのお話会に向かう途中の運転中で、とっさに対応して折り返す旨伝えたが、しみじみ脳みそって面白いな、どうなってるんだろうと思った。

ミラノから戻って20年。この間イタリア語を日常的に聞くこともないし、忘れないためにブラッシュアップしているわけでもない。その辺にイタリア人ツーリストはごまんと見かけるが、別に積極的に話しかけることもしない。だからわたしの日常生活にはほとんど関係なくなっている言語であるのに、なんで咄嗟にペラペラ対応できるんだろう、当たり前のような気もするけど、考えるとやっぱり脳の謎である。

いったんその言語での生活がベースになる環境ができると、脳の中にパーテーションができて、別な言語OSで動くようにできているのではなかろうか。優秀な通訳はこのパーテーション間の通信速度がべらぼうに早い、ってことなんじゃないだろうか。

わたしはポンコツだから、英語を話していても途中から単語がイタリア語になる、といったバグが発生してしまう。

 

、、、、まあそんなことはいいや。

 

久しぶりに会うアルベルトを一目見て「ずいぶん歳とったな〜」と思ったら、しみじみ愛おしさを感じてきた。一緒に連れてきた息子はもう23歳。そうかそうか、わたしも同じだけ歳をとってるんだろう。そういうことは人を見てじゃないとわからない。

前回会ったのがナーコロ前、わたしにとっては父が亡くなるより前だから2018年のこと。2019年からわたしは一歩も日本の外に出ていないし特に出たい気持ちもあんまりない。

わたしが鎌倉1美味いと思う、イタリア人がやってるピッツェリアはイタリアのピッツァより美味しい。

地元産のタコのサラダが美味しいから食べようよと言っても、食に関して保守的なミラノ人らしく、彼はタコを拒否。店の人に「こいつらミラネーゼだからタコを食べないんだよ!」「かーーーー!こんなに美味しいのにねえ」と言っては一同爆笑。

ピッツァが運ばれてきたらガツガツと食べる。ちんたらしてたら冷めてしまって美味しくないから。そして自分のお皿は自分だけで食べ、みんなで取り分けて〜ということはしない。

それから食後にカフェラッテとかカプチーノとか、牛乳の入ったものは絶対に頼まない。魚介のパスタにチーズをかけることも絶対にしない。

・・・・・そんなイタリア的な「永遠のお約束」も、なんだかとっても愛おしいというか、変化激しいこの世界の片隅で、そんな「小さなどうでもいいこと」を頑なに死守している「相も変わらずさ」が、可笑しくもありたまらなく愛おしさ(に似たもの)を感じてしまい口元緩む。人間存在、嗚呼この滑稽で愛おしいものよ、、、、

お土産にマルケージ。これもやっぱりミラノのお約束。

 

世界情勢のこと、日本の状況のこと、中国人をどう思う? Z世代をどう思う?為替の話、東京の地価のこと、日本の政治体制の話、最近の映画の話、オーバーツーリズムの話、自分のこと、あいつどうしてる?って話、、、短時間に話題は尽きず。

イタリア人は声が大きい。お前にやましいところがないならでかい声で話せ。思っていることは言え。

大きな声で語り、相槌を打ち、いやいやそうじゃないと否定し、大きな声で笑う。当然、わたしの声も大きくなる。イタリア語は話していると気持ちが良くなる言語だ。腹から声を出せば誰でも元気になる。

 

海が見たいという息子氏のリクエストで、店を出て、歩いて海まで行き、「水着ではない人が浜にいる」日本の夏のビーチが彼らには新鮮だったよう。

由比ヶ浜を歩き、むせ返るような湿気の中、観光客の少ない長谷観音、大仏と回った。

こんな日でもなければ、どこに行っても黒山の人だかりだからクルゾ難民もよかったかも知れない。

これ見たらわかるでしょ、ほとんど日本語は見当たらない。

 

大仏さまもこの日は少しリラックスできてる。

 

 

あまりの蒸し暑さに辟易し、雨が降る前にまたねと言って我々はお別れ。すっごく楽しい1日だった。

国境のない世界は理想かも知れないが、国境があること、文化や言語が違うことで、かえって育まれるものもある。

世界が均一にされそうな昨今だけど、わたしは差異のある世代に生まれた楽しみを得たってことなんだなあと思う。

 

Google先生が言語の壁はやすやすと壊してくれたせいで、我々は実際的にはもう外国語を習得する必要はゼロになった。

けれども、人にとって母国語以外にいくつかの言語を得ておくことは、「間口を広げる」ことに役立つと思う。ものごとの道理の立て方、良いとされる行い、合意形成のさせ方、、、世の中にはいろんな捉え方があるんだよと、角度を変えて見ることができるからね。「そんなのおかしい」も、他の国に行ったら「別にフツー」。逆もまた真なり。それが面白いと思う。

 

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